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日程調整業務の「構造化」 ― なぜ、予定を合わせるだけで疲弊するのか
日程調整業務の「構造化」
― なぜ、予定を合わせるだけで疲弊するのか
1. 導入:日程調整が異常に重たい現場
山梨の経営者やリーダーの方々と話していると、「時間が足りない」という悩みをよく聞きます。 しかし、その時間の使い方を詳しく聞いてみると、驚くべきことに、その多くが「調整」に使われています。
「A社との打ち合わせ、来週のどこかで決まった?」 「社長、再来週の午後は空いていますか?」 「すみません、相手からその日は都合が悪いと返信が来まして…」
一日に何度もカレンダーアプリを開き、メールを打ち、電話で確認する。 ただ「会う時間を決める」という、本来なら数秒で終わるはずの決定事項のために、膨大な精神力と時間が溶けていきます。
しかも、この作業は「仕事をした気」になりやすい。 一日中連絡を返して、気づけば夕方。生産的なことは何もしていないのに、疲れだけが残る。そんな現場が非常に多いのが現実です。
2. なぜ予定合わせは毎回トラブルになるのか
「相手から返信が来ないから遅れる」 「秘書がいないから仕方がない」
そう諦めている方も多いですが、根本的な原因はそこにありません。 日程調整がトラブルになる最大の理由は、「ボールの受け渡し回数」が多すぎるからです。
- こちらが空き状況を確認する
- 候補日を3つ書き出してメールする
- 相手がカレンダーを確認する
- 3つとも合わないと返信する
- こちらが再度、別の候補日を探す
- 相手に送る
- 相手が決める
- こちらのカレンダーに登録する
このプロセスの中で、実に8回もボールが行き来しています。 回数が増えれば増えるほど、その間に「別の予定」が入るリスク(ダブルブッキング)が高まり、「返信待ち」という認知コストが積み重なります。
これはコミュニケーションの問題ではなく、プロセスの欠陥です。
3. 問題は連絡ではなく「判断構造」
日程調整の本質は、チャットやメールによる「連絡」ではありません。 「空いている枠への割り当て」という判断です。
本来、カレンダーに「空き」があれば、そこは「予約可能」なはずです。 しかし、多くの人のカレンダーには「構造」がありません。
「空いているように見えるけど、移動時間が必要かも」 「この時間は空いているけど、事務作業をしたい気分かも」 「家族の用事が入るかもしれない」
こうした「頭の中にしかない条件」が、カレンダー上に反映されていない。 だから、毎回人間がその都度判断し、「候補日」として翻訳して相手に渡さなければならないのです。
この「翻訳作業」をやめない限り、日程調整はなくなりません。
4. 属人化がスケジュールを壊す仕組み
特に少人数組織では、予定管理が属人化しがちです。
「社長の予定は社長しか分からない」 あるいは、「社長の予定は、奥さん(経理担当)に聞かないと分からない」。
この状態では、社員は社長の時間を確保するために、毎回お伺いを立てる必要があります。 その確認を待っている間に、お客様からの希望日は埋まってしまう。 慌てて再調整しようとすると、今度は社長が外出してしまう。
情報の非対称性が、無駄な待ち時間とストレスを生み出しています。 「誰が見ても、空きが空きとして確定している状態」を作らない限り、組織のスピードは上がりません。
5. 日程調整業務の構造とは何か
日程調整を「業務」として構造化するには、以下の3つを定義する必要があります。
- 情報の起点(誰が・いつ・何を持っているか) カレンダーは「個人のメモ」ではなく「会社のデータベース」です。移動時間、準備時間、プライベートの不可侵領域も含め、すべてが記録されている必要があります。
- 判断権限(誰が最終決定するか) 「相手に選ばせる」のか、「こちらが指定する」のか。一般的に、相手に選ばせた方が割り当ては早くなりますが、そのためには「空いている時間は誰が入ってきてもOK」という覚悟(ルール)が必要です。
- 例外処理(イレギュラーはどこで吸収するか) 「絶対に動かせない役員会議」と「ずらしてもいい社内ミーティング」の区別がついているか。優先順位のタグ付けがなければ、システムは判断できません。
これらが定義されて初めて、「空いているところを選んでください」というURLを相手に渡すことができます。 構造なきURL送付は、ダブルブッキングの元凶になるだけです。
6. 構造が整うと何が変わるか
日程調整の構造が整うと、世界は一変します。
「来週打ち合わせしましょう。空いているところに入れておいてください」 この一言と、URLを1つ送るだけで、仕事が終わります。
相手が都合の良い時間を選ぶと、瞬時に自分のカレンダーに予定が確定し、ZoomのURLが発行され、相手に通知が届く。 その間、あなたは一度もカレンダーアプリを開く必要がありません。
「調整していた時間」がゼロになり、「本来の仕事」に向き合う時間が生まれます。 また、相手にとっても「返信を待つストレス」がなくなり、好印象に繋がります。
7. 結論:その調整は本当に人がやるべきか
「調整」は、付加価値を生まない業務の筆頭です。 しかし、それをなくすためには、強い意志を持って「自分の時間のルール」を決める必要があります。
カレンダーを整理し、ルールを決め、構造を作る。 それは、自分の人生の主導権を取り戻す作業でもあります。
あなたは明日も、 「来週のご都合はいかがでしょうか」と入力しますか? それとも、構造に仕事を任せますか?
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日程調整に時間を取られている状態は、 忙しいのではなく、構造が未定義なだけかもしれません。
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