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「電話とチャットで仕事にならない」を解決する。士業事務所の『問い合わせフィルター』構築術
はじめに
「集中して申告書を作っている最中に電話が鳴る」 「Chatworkの通知が止まらず、確認するだけで午前中が終わる」
顧問先とのコミュニケーションが手軽になった反面、その「即レス」のプレッシャーや絶え間ない通知に疲弊している先生は少なくありません。 「対応の速さ」は確かに付加価値ですが、そのために本来の業務品質や、先生自身の精神衛生が犠牲になっては本末転倒です。
本記事では、AIで全て自動応答する…といった夢物語ではなく、現実的に「作業の中断」を減らすための、問い合わせフローの整理術(トリアージ)について解説します。
なぜ「AIチャットボット」を入れても失敗するのか
問い合わせ対応を楽にしようと、多くの事務所がウェブサイトに「よくある質問(FAQ)ボット」などを設置します。 しかし、顧問先からの相談において、これが機能することは稀です。
顧問先の質問は「個別具体的」すぎる
「従業員のAさんが〜という事情で休むんですが、傷病手当金は出ますか?」 「今月、〜の経費が大きかったんですが、節税対策どうなりますか?」
こうした質問に対して、一般的なAIボットは「制度の概要」しか答えられません。しかし顧問先が求めているのは「ウチの場合はどうなのか(判断)」です。 結局、「詳しくは担当者へ」と誘導され、二度手間になるだけです。
本当に見るべきは「業務の流れ」
問い合わせ対応を「点」で見ると「答える」作業に目が行きますが、「線」で見るとボトルネックは別の場所にあります。
- 発生(Inquiry): 顧問先が質問を送る(電話・チャット)
- 選別(Triage): 誰が対応すべきか、緊急かを確認する
- 調査(Check): 事実確認や法令チェック
- 回答(Reply): 返信を作成・送信する
最も先生の時間を奪っているのは、実は**「2. 選別(トリアージ)」です。 通知が来るたびに「これは緊急か?」「自分がやるべきか?」「スタッフでいいか?」と脳のリソースを割き、作業の手を止める。 この「中断コスト」**こそが、生産性を下げる真犯人です。
最初に取り組むべき「入力側の最適化」
解決策は、AIに答えさせることではなく、**「先生の元に届く前に整理すること(フィルタリング)」**です。
1. 問い合わせ窓口を「フォーム」に一本化する
電話や個別のチャットではなく、原則として「相談受付フォーム」を通してもらうようにします。 ここで、「誰に関する相談か」「緊急度は?」「ジャンルは(保険・給与・税務)?」を選択させます。これだけで、「何の話かわからない連絡」を解読する時間が消えます。
2. 自動で「振り分け」を行う
フォームに入力された内容に応じて、システムが自動で担当者を割り当てます。 ・「住所変更」などの定型手続き → スタッフのタスク一覧へ ・「緊急の労務トラブル」 → 先生のチャットへ即時通知(メンション付き)
これにより、先生は**「自分に来た通知は、必ず自分が対応すべき重要案件である」**と確信できるようになります。不要な通知を見に行く必要がなくなるのです。
3. AIによる「回答下書き」作成(Human-in-the-loop)
AIの使い方として有効なのは、直接客に返させるのではなく、**「先生のためのドラフト(下書き)を作らせる」**ことです。 相談内容を読み取ったAIが、「このような回答でいかがでしょうか?」と先生に提案する。先生はそれを確認し、修正して送信ボタンを押すだけ。 これなら、責任ある回答品質を保ちながら、タイピング時間を大幅に削減できます。
まとめ:静かな業務環境を取り戻そう
「いつでも連絡がつながる」ことは安心感につながりますが、「いつでも作業を中断できる」状態であってはなりません。
入り口を少し整え、システムによる選別を挟むだけで、事務所の静寂は守られます。 まずは「電話を減らし、チャットを選別する」ことから始めてみませんか。