INCIERGE

INSIGHTS

見積・請求業務の「構造化」 — なぜ、忙しいのに数字が出てこないのか

2025/12/18 INCIERGE
山梨 業務構造 見積り 経理

見積・請求業務の「構造化」

— なぜ、忙しいのに数字が出てこないのか

1. 導入:見積が遅い会社の違和感

山梨の様々な企業を訪問していると、よく目にする光景があります。

事務所では電話が鳴り続け、ホワイトボードには予定がびっしり。 社長も社員も、朝から晩まで走り回っている。「忙しい」ことは間違いありません。

しかし、その忙しさの割に、「数字」が出てくるのが遅いのです。

「あの案件の見積もり、どうなってる?」 「先月の請求金額、確定してる?」

社長がそう聞いても、即答できる人がいない。 担当者が慌ててパソコンを開き、いくつかのエクセルファイルを確認し、電卓を叩いて、ようやく「たぶん、これくらいです」という答えが返ってくる。

全員が一生懸命働いているのに、なぜか会社としてのスピードが上がらない。 見積もりを作成すること自体が、まるで一つの大きな「プロジェクト」のようになってしまっている。

この違和感の正体は、何なのでしょうか。

2. 見積がうまく回らない本当の理由

「担当者の手が遅いからだ」 「使っている販売管理ソフトが使いにくいからだ」

そう思って、社員を叱責したり、新しいクラウドソフトを検討したりする経営者は少なくありません。しかし、多くの場合、それで問題は解決しません。

人が入れ替わっても、ソフトを変えても、しばらくするとまた「見積もりが遅い」状態に戻ります。

なぜなら、本当の問題は「作業スピード」ではないからです。 問題なのは、**「毎回ゼロから考えている」**という構造そのものです。

「このお客さんの単価はいくらだったか」 「前回の条件はどうだったか」 「この材料費は今いくらか」

これらを、見積もりのたびに記憶や過去のメールから引っ張り出し、その都度判断している。 つまり、見積もり作成が「処理」ではなく、毎回悩む「再発明」になっているのです。これでは、どんなに優秀な人がやっても遅くなります。

3. 問題は“作業”ではなく“業務構造”

本来、見積もりとは「判断の結果」であるはずです。

Aという商品を、Bという条件で売るなら、価格はCになる。 これは論理的な帰結であり、そこに「悩む」時間は本来必要ないはずです。

しかし、多くの現場では、見積もりが「属人作業」化しています。 「あの人にしか分からない特例」や「あのお客さん特有の事情」が、個人の頭の中にだけ存在し、どこにも明文化されていない。

業務の「構造」が存在しないため、毎回ゼロベースでパズルを組み立てるような作業が発生します。

構造がない状態で、「早くやれ」とお尻を叩いても無理があります。 構造がない状態で、便利なツールを入れても、入力すべき正解が決まっていないので混乱するだけです。

4. なぜ地方ほど見積が壊れやすいのか

特に山梨のような地方の中小企業では、この傾向が顕著です。

第一に、人が少ないこと。 「営業事務」という専任がおらず、社長や現場のリーダーが、昼間の作業の合間や夜中に見積もりを作っているケースが多々あります。「忙しい」が常に免罪符になり、仕組みを整える時間が取れません。

第二に、現場と事務の距離感です。 物理的な距離は近いのに、情報の距離は断絶していることがよくあります。現場の状況(工期の遅れや材料の変更)が、事務方に伝わらず、請求の段階になって「話が違う」と揉める。

これらは全て、個人の頑張りでカバーされてきました。しかし、その「頑張り」こそが、業務構造の欠陥を隠してしまっているとも言えます。

5. 見積業務の“構造”とは何か

では、どうすればいいのか。 まずは業務の構造を整理することです。具体的には、以下の3つを定義します。

  • 情報の流れ 問い合わせから着金まで、データがどう流れるか。口頭で伝えている部分はどこか。
  • 判断ポイント 誰が価格を決めるのか。その基準(原価率、利益率、過去実績)は何か。
  • 再利用できる単位 「一式」で済ませている項目を、どこまで分解・標準化できるか。

いきなりシステムを入れる必要はありません。 まずはホワイトボードに書き出し、これらの矢印を繋ぐだけでいいのです。それだけで、「ここで情報が止まっている」「ここで無駄な判断が入っている」ことが見えてきます。

6. 構造が整うと何が変わるか

業務構造が一度整うと、劇的な変化が起きます。

まず、「悩み時間」が消滅します。 条件を入力すれば、構造に従って答えが出る。単純な入力作業になるため、スピードは何倍にもなります。

次に、ブレなくなります。 誰が作っても同じ見積もりが出る。これは企業の信頼性に直結します。

そして何より、社長が「数字で判断」できるようになります。 見積もりが構造化されていれば、データとして蓄積されます。「どの案件が利益が出ているか」「どの顧客の対応コストが高いか」が、感覚ではなく数字で見えるようになります。

夜中に電卓を叩く時間はなくなり、その時間で経営判断ができるようになるのです。

7. INCIERGEの立ち位置

私たちは、「見積書作成ツール」を売りたいわけではありません。 見積もりの自動化は、あくまで結果です。

私たちが提供するのは、その手前にある「業務構造の整理」です。 あなたの会社の商流を理解し、絡まった糸を解き、スムーズに情報が流れるパイプラインを設計する。

そのパイプラインが完成して初めて、 「じゃあ、ここはGASで自動化しましょう」 「ここはkintoneで管理しましょう」 というツールの話になります。

ツールはただの手段です。大切なのは、あなたの会社のお金に関わる業務が、健全な構造の上で回っているかどうかです。

8. 結論

最後に、一つだけ問いかけさせてください。

あなたの会社の見積もり業務は、 会社の利益を生むための「判断」になっていますか? それとも、社員の時間を奪うだけの「作業」になっていますか?

そしてその答えとなる数字は、 システムの画面にありますか? それとも、誰かの頭の中にありますか?

見積や請求が「重たい作業」になっている場合、 それはツールではなく、業務構造の問題かもしれません。

自動化の実装に進む前に、 まずは「業務構造」が整っているかを確認してみませんか? → 自動化の準備状況をチェックする