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「資料さえ来れば終わるのに」を無くす。士業のための『督促オートメーション』の考え方
はじめに
「処理自体はすぐ終わるのに、資料が届かないから手がつけられない」 「月末になると、何社もの顧問先に『資料まだですか?』と連絡して回るのが憂鬱だ」
これは、多くの会計事務所・社労士事務所で聞かれる共通の悩みです。 資料回収の遅れは、単なる着手の遅れではありません。催促という「心理的負担の大きいタスク」を発生させ、事務所全体の生産性とモチベーションを著しく低下させる要因です。
本記事では、多くの事務所が陥りがちな「資料回収ツールの罠」と、それを解決するための「督促オートメーション」の考え方を解説します。
なぜ「資料回収システム」を入れても解決しないのか
多くの事務所が、この問題を解決しようとして「クライアントポータル(顧問先専用ページ)」や「ファイル共有サービス」を導入します。 しかし、導入しても結局うまくいかないケースがあとを絶ちません。なぜでしょうか。
1. 顧問先にとって「入力作業」は面倒なだけ
顧問先(特に中小企業の社長や経理担当)にとって、税理士や社労士への資料提出は「本業以外の面倒な作業」です。 そこに「新しい専用ページにログインしてください」「指定のフォルダに入れてください」というルールを課しても、彼らはログインIDを忘れ、結局いつものLINEやメールで写真を送ってきます。
2. 「システム」は催促してくれない
箱(ポータル)を用意しても、そこに入れるよう促すのは、結局「人」の役目であり続けます。 「今月もまだ来ていないな…」と管理表を確認し、個別に連絡をする。この**「誰が未提出かを確認し、追いかけるコスト」こそがボトルネック**なのですが、多くのツールはここを解決してくれません。
本当に見るべきは「業務の流れ」
資料回収業務を「点」ではなく「線(プロセス)」で見てみましょう。
- 依頼(Request): 今月の資料をお願いしますと伝える
- リマインド(Reminder): まだですか?と促す(1回目、2回目…)
- 受領(Reception): ファイルが届く
- 確認(Validation): 足りているか、鮮明か確認する
- 処理(Processing): 実際の業務へ
最も時間がかかり、かつ価値を生まないのが**「2. リマインド」と「4. 確認(からの再依頼)」**のループです。ここを自動化しなければ、根本解決にはなりません。
最初に取り組むべき「入力側の最適化」
では、どうすればよいのでしょうか。正解は、**「相手の生活動線に入り込むリマインド」**を自動化することです。
1. 相手が普段使っているツールに送る
新しいポータルサイトの通知など、誰も見ていません。 相手がLINEを使っているならLINEに、ChatworkならChatworkに、**「いつもの場所」へ自動で通知が届くようにします。**これだけで反応率は劇的に変わります。
2. 「未提出」だけを検知して自動追撃する
・毎月1日に「今月の提出依頼」を自動送信 ・Googleドライブの指定フォルダが空であれば、10日と20日に「まだ確認できていません」と自動送信 ・提出されたら「ありがとうございます」と自動返信し、リマインドを停止
このように、「提出状況」をトリガーにして督促そのものをシステムに代行させるのです。 「あの会社、出したかな?」と気にする必要はもうありません。
3. ファイルを自動でリネーム・保存する
LINEやメールで受け取った画像を、RPAやiPaaSを使って「日付_会社名_資料種別.jpg」のように自動でリネームし、所定のフォルダに格納する仕組みを作ります。 これで、担当者は「フォルダを開けば資料がある」状態から仕事をスタートできます。
まとめ:督促という「嫌な仕事」を手放そう
「資料さえ揃っていれば10分で終わる」 そう思うのであれば、その「揃える」プロセスにこそ、テクノロジーを投資すべきです。
新しい高機能なツールは必要ありません。今あるチャットツールとクラウドストレージを自動連携させるだけで、この仕組みは数日で構築可能です。 毎月の「資料まだですか?」というストレスから解放され、本来の業務に集中できる環境を整えましょう。